紅雨/勇魔。/COC/その他

紅雨 一章 3、菊の露

「つゆり…お客さん…」
「え?こんな時間に?」

吟(ぎん)が店の奥にいた私を呼びに来る。ふと時計の針を見ると午前1時を回っていた。

「よ!おじゃましまーす」
「よ!じゃないよ楽!?なんでこんな時間に…って何人連れてきて…」
「ばんわー!おじゃまします~」
「お、おじゃまします」
「へえこんなお店が…お邪魔します」
「待って、全く見慣れないイケメンがいるんだけど何どうしたの誰」
「俺のダチ」
「これまたざっくりした説明だね!?」
「なるほど。いらっしゃい。小さい店だけどゆっくりしてってね」
「いいんだ!?今の説明で入れるんだ!?伊賀大丈夫!?」
「楽からツッコミポジを奪うとは…さては相当の使い手…」
「ツッコミポジ奪ったから何!?基準おかしいよなそれ!?」
「あ、奪い返した」
「…話進めていいか?」
「どうぞ」
「かくかくしかじかで、俺は里冉っていいます」
「ほえ~なるほど~こんなイケメンな友達いたんだね楽」
「それでわかったのか流石だな…」

使い古されたネタまでしっかり拾ってツッコむ楽も流石…。

「私は小椋 梅雨梨(おぐら つゆり)。この店…菊の露の店主よ。よろしくね」
「素敵な名前のお店ですね…長寿ですか…」
「よく知ってるわね。そう、末永く愛されるお店にしたいから、って母が付けたの」
「へえ、そうなんですか。…それでそちらの小さい子は?」
「…っ」
「ほら、吟。恥ずかしがってないで挨拶」
「…え、えっと…吟…です…」
「吟君か~よろしくね」

私の後ろに隠れちゃってる吟に、にこにこと微笑みかける里冉くん。
でもあの吟が案の定初対面の相手になつくわけもなく…人見知りが発動して奥の部屋へと逃げ込んでしまった。

「あちゃ…怖がらせちゃったかな」
「気にしなくていいよ。あの子いつもああだから…」
「まあ相手が里冉だしなーしゃーねーよ」
「うん?どういう意味かならっくん?」
「よっし本題にはいるかー」
「ねえどういう意味」
「梯のさー」
「あ、もう完全にスルーなわけね解った」

店の和室に皆を座らせ、本題を始める楽。どうやら梯についてらしい。私も聞いていいのかなこれ、と思いつつ気になるので話に混ぜてもらうことにした。

「早速聞いていいか?戦闘どんな感じだったんだ?」
「使ってた武器は普通に俺らとたいして変わらないものばかりだったよ。体術もそこそこ。ただ…」
「ただ?」
「ツーマンセルっぽかった。話には聞いてたけど多分どの構成員も決まった相手との連携がめちゃくちゃ取れてるんだと思う。あと目立ったことと言えば、爆弾」
「爆弾…」
「小型で見た目ではあまりわからないものが多く、威力もそこそこ。あれはちょっと厄介だね」
「へぇ…でもそいつ倒したんだよな?」
「あ、いや、倒したっていうか…まあ片方は始末したけどもう片方は逃がしちゃったんだよねぇ…」
「そうだったんだ」
「それに話し方からして爆弾は作ってるやつが別にいるっぽかったよ」

そうかこの里冉って子、あの梯の忍二人相手に勝ったんだ…しかも一人で…。
やっぱり雰囲気が違うと思ってたのよね…この子いったい何者…。

「逃がしたやつ、どんな奴だった?」
「確か…片耳ピアスで黒髪青目の男…背丈は俺よりちょっとでかくて体格はおそらく細め…武器は…確か銃とか使ってたかなぁ」
「へえ、銃か…」
「闘った感じとしてはそこまで強くは無いけど銃を使うせいで間合いをとるのが難しいかな。離れると明らかに相手のが有利になっちゃうし…まあ思いっきり近づいちゃえばこっちのもんだけど、それをさせないのがもう一人の役目…って感じだった。よくあるパターンだけどね」

優が几帳面な字で持ってきていたらしい手帳に、里冉くんが話す情報をどんどん書き込んでいく。
書くのが一段落すると、優はおずおずと口を開いた。

「僕からも聞いていいですか…?」
「ん?なぁに優くん」
「梯の人って元々どこの里だとかいうのはわからないんですかね?最近一人顔割れた奴がいるらしくて…そいつの素性を調べてるって話を聞いて、やはり元はどちらかの里の忍だったのではと」
「ああ、あるねそんな話。俺が確認してる限りはまだわかんないよ。わかんないけど、その通りだと思う。じゃないとわざわざ何も関係ない伊賀や甲賀に襲撃してこないでしょ」
「ですよね」

きっと法雨に恨みある奴もいるんだろうなぁ…、とボソリと呟く里冉くん。
そっか、どっかで聞いた名前だと思ったら法雨の跡継ぎさんか…!
しかし、法雨って立花と対立してたんじゃ…まあ悪い子じゃなさそうだしいっか。
そもそもこの伊賀で甲賀の忍が堂々と友達と話をしているこの光景がもう異常なんだけどね。この場にいる大人が私じゃなかったら、きっと里冉くん真っ先に里の上の人に差し出されてるだろうな…。

「あのさ、ちょっと待って、優そんな話も知ってたの?」
「あ、言ってませんでしたっけ」
「知らんぞ」
「えへへ~すみません」
「誤魔化すな。って岳火寝てるし!」
「ついてきた意味あったんですかねコイツ…」
「さあな…」

そのあとも楽達と色々話したあと、里冉くんは「任務あるから~」という言葉と爽やかなイケメンスマイルを残して颯爽と去っていった。

「さてと、俺もそろそろ帰って明日に備えなきゃ」
「僕も部屋抜け出してるのバレたら怒られちゃうので…」
「そっか。泊まってってくれてもよかったんだけどね」

すると声を聞いていたらしき吟が奥の部屋から半分顔を覗かせる。

「楽兄…帰るの…?」
「おう、ごめんなまた来るぜ。おやすみ」
「うん、おやすみ…!」

楽に頭をポンポンと撫でられ、吟は嬉しそうに小さく笑う。
もう寝たかと思ってたけどやっぱ楽に遊んでほしかったんだな吟…。

「では、ありがとうございました…!」

優ががくをおんぶして帰…って大丈夫かなめっちゃふらついて…あ、楽に交代した。

店の外に出ると、まだ春先なだけあり、少し肌寒かった。
バイバイ、と小さく手を振り見送る吟に手を振り返しながら、楽が私に話しかける。

「なあ梅雨梨」
「ん?今日の事は口外すんなって?もちろんわかってるよ」
「さっすが頼れる姉さん。頼んだぜ」
「おう任しときな!」
「あとさ」
「何?まだあんの?」
「…なんでもない」
「そう?ならいいや」

楽は何か言いたげだったが、後の言葉を続けることは無かった。

「んじゃ!まじでさんきゅな梅雨梨」
「いいってことよ」
「おやすみ!」
「おやすみなさい!」

 

 

伊賀から甲賀へ抜ける森を移動する二つの影。
背の低いほうがもう一人に話しかける。

「…あーあ、いいんですか里冉さん?あんなにベラベラ喋っちゃって」
「うん。あっちの情報も貰えたし。伊賀も動き出してるのわかったし」
「うーんそれにしてもちょっと喋り過ぎじゃないですか?当主に怒られますよ?」
「いいのいいの。同じ情報量からのスタートのほうが面白いじゃない」
「はぁ…怒られても知りませんからね~?」
「あはは、心配してくれてるの?」
「いや全然。むしろこっぴどく怒られてくれればいいと思ってます」
「酷いなぁ」

ま、正直らっくんの顔見たかっただけなんだけど…、とボソリと呟いた言葉は二つの影と共に森に消えていった。