紅雨/勇魔。/COC/その他

紅雨 一章 4、秋月班

朝。というか、早朝。

夜中のまさかの里冉との再会や梯についての情報交換(ほぼ貰ってたけど)もあり、あまり眠れなかったのは言うまでもないだろう。
しかし俺は秋月班の集合がかかるかなり前に起きたのだ。というか強制的に起こされたのだ。某国民的アニメのエンディングを耳元で流され、思わずツッコミを入れてしまったのだ。

「おはよー楽兄―!!!今日は顔合わせなんでしょー!!遊ぼう!!」
「…お前顔合わせの意味わかってねぇだろ、卯李(うい)」
「うん!!」
「即答かよ」

目を開けると目の前にあったのは卯李の顔。
コイツは茶紺と一緒に暮らしている子供だ。見た目は完璧に女の子だが、実は男だ。なんで俺の周りにはこんなに女っぽい男が多いんだ…。
茶紺繋がりで立花によく出入りしているし、普段もよく俺が遊び相手をしてやっている。だから俺の部屋にいることも不思議ではない。が…。

サ●エさんの音楽を流しながら俺の上に跨る卯李をどかし、時計を見る。うわ4時半とか嘘だろ…ねっむ…。

「それそろそろ止めたらどうだ。もうすぐサザ●さん達家入ってくよなそれ」
「あ、うん!」
「…で、なんでこんな時間に起こされなくちゃいけねーんだ」
「あのね!茶紺がね!起こせって!」
「は!?茶こ…班長が?」
「うん!」

もしかして集合時間聞き間違えた??とかハラハラしながら確認する。

「…集合時間十時だろ?」
「うん!」
「なんでこんな早く?」
「んーっとね、なんでだっけ?」
「おい」
「あ!思い出した!」
「お?」
「装備買いに行きたいんだって!」
「俺の…?」
「そうだよ!あと、恋華と会わせる前に色々話したい、とかも言ってたな…なんでだろーね?」
「まあいいやとにかく行けばいいんだな?」
「うん!」
「…お前遊ぼうって言ってたよな最初」
「あ…うん、忘れてたから!」
「起こすってことしか覚えてなかったんだな」
「えへへ、そういうこと~!」

卯李はもう可愛いから許す!よし!
まだまだ寝ぼけている頭を無理やり起こす様に急いで支度をし、部屋を出る。

突然背後に気配を感じ、振り向く。

「うわっ!?」

案の定、目に飛び込んできたのは薄ピンクの可愛いウサギ頭をしたガタイの良い男(?)だった。

「おま…いきなり出てくんのやめろって何回言えば…」
「あーおせちー!」
「《ビビってるんですか楽さん~ぷーくすくす》」
「やめろ…なんかその顔で言われんのすげぇ屈辱的だ…」

ホワイトボードを使って会話するウサギ頭のコイツは、卯李のボディーガードをしているおせちだ。
ボディー…ボディーガード…?うん、まあ多分ボディーガード…なんじゃないか?とにかく謎だらけで紹介しようにも疑問符ばかり浮かぶ。年齢、性別、出身、種族(?)、本名…と、とにかく全てが謎に包まれている。そんなおせちだがなぜかめちゃくちゃ周りには受け入れられている。なぜだ。俺いまだに慣れないんだけど。数年前に茶紺が突然連れてきたんだが…いつの間にかいた。って感じだったな…。

「…でなんか用あるんだろ?」
「《はい。買い物の前に朝食だそうで、呼んで来いと言われました》」
「あ…そう。さんきゅ」
「わぁい朝ごはんー!」
「あ、ちょ、こら走んなって!転ぶぞ卯李」
「大丈夫だよぉー!」

とはいえ卯李はドジだ。案の定コケた。しかし卯李の体が傾くと同時におせちが手を掴んで自分の方へと抱き寄せる。うっわぁ相変わらずナイトだなこのウサギ…。

「ありがとおせち」
「《お気を付けてくださいませ卯李様》」

…あとおせちの特徴といえば卯李にだけはめちゃくちゃ甘いってことだな。

 

「おはよう、楽」
「おはよ…って親父も起きてたんすか」
「ああ」
「寝てていいのに…」
「何を言っている、可愛い楽とごはんを食べる為なら…っ」
「はいはい、親バカなのはわかりましたから」
「なんだ茶紺、自分を棚に上げて」
「屍木さんには敵いませんよ~」
「ボディーガードまで付けてる奴が言うか…?」

俺は親父の隣に座り、茶紺からご飯のお茶碗とお箸を受け取る。
そんな俺にニコニコと笑顔を向けながら卯李は俺の真正面に座った。

「買い物って何買いに行くんだ?」
「行けばわかるさ」
「いやまあそうだろうけど」
「そうだ、楽」
「はい?」
「お前、夜中帰ってくるのやけに遅かったそうじゃないか。岳火まで引き連れて…何処行ってたんだ」

思わぬ話題にギクッとする。里冉と会ってたことなんて知られたら…俺はともかく里冉も危ない気がする…。

「ちょっと優呼びだして話してただけっす。優だけ呼んだのになぜか岳火もいたってだけっす」
「そうか。まあアイツらいつも一緒だしなぁ」

えっあっ誤魔化せた…?
でも嘘は言ってないぞ。言ってない。ちょっと大雑把に言っただけ。
しかし何で遅かったことバレてるんだろ…。

朝ごはんを食べ終わると、俺は茶紺に連れられて外へと出る。
梅雨梨の所へ行くのだろうか。そういえば説明してなかったが、菊の露は万屋だ。食料品から生活用品まで色々なものが売っており、奥の部屋の売り場には忍専用の武器が置いてあったりする。昨日話していた部屋とはまた別だ。この里は忍以外の人も暮らしている為、わざわざ分けているらしい。まあ皆忍の存在は知っているので意味があるのかどうかは謎だ。ちなみに梅雨梨本人もくノ一では無く一般人だ。
少し先を歩いている茶紺が唐突に口を開く。

「楽、お前なんで夜中に菊の露にいた?」
「…!?なんで知ってるんだ」
「梅雨梨から聞いた」

アイツ…あれほど言わないって…。
ん?でもなぜいたかを聞かれてるってことは里冉の存在は話してないのか…?

「優達と話してて立ち話もなんだし店いこーぜってなっただけ」
「気になってたんだけど、その話ってもしかして梯についてだったり?」
「なんでわかるんだよ…」
「上忍なめるなよ~」
「ああ、そうだよ。梯の情報整理してた。特に何も収穫は無かったけど」

なんてな。里冉からの話で前よりはだいぶ梯の実態掴めたぜ。…多分。

「そうか…梯ねぇ…」
「茶紺は戦ったことあるんだろ?」
「まぁ…一回だけね」

そうこうしてる間に菊の露が見えてきた。卯李も連れてきてやればよかったなぁ、と俺は嗅ぎつけて出てきたらしい吟に手を振りながら思った。


店の中に入るとすぐさま奥の忍専用売り場に通された。
装備…新しく手に入ると思うとやはりわくわくする。

「さあ、お好きなのをどうぞ!っていっても楽サイズの物なんて限られてるんだけどねぇ」
「誰がチビだ」
「え、チビでしょ?」
「否定できない…っ」

まず俺の目に入ったのは持ち手と紐が赤いクナイだった。聞けばかなり昔から使われてきているものらしい。それにしては綺麗だ…。
しばらく見惚れていると、梅雨梨が覗きこんできた。

「気に入った?」
「…おう」
「…楽に使いこなせるといいんだけど」
「なんか言ったか?」
「ううん、何でもないよ?あ、そうだ、これも楽に似合いそうじゃない?」

そう言って梅雨梨が持ってきたのは手首のほうに赤いフチのある黒いグローブ。

「そういやグローブも新しいの欲しかったんだよな…」
「じゃあこれとそのクナイ、でおっけー?」
「え、あ、でも俺そんなに買うお金…」
「ああ、値段は気にすんなって。配属祝いのプレゼントだから」
「え…いいのか?」
「もっちろん」
「梅雨梨…!さんきゅ…!」
「まあ後で班長さんからちょっくらまき上げてくるけど」
「何か言ったかな梅雨梨??」
「何でもない茶紺」

新しいグローブとクナイをしまうと、更に奥の部屋から声が聞こえてきた。

「あ、ちょっと吟…そこはこうだよぉ…っ」
「声がでかいよ卯李兄…!」

卯李?家に置いてきたはずなんだが…?
恐る恐る奥の部屋を覗く。

「あっちゃぁ…せっかく時間稼いでたのに…まいっか」
「あはは…サプライズ失敗…かな」

「何これ…!」

そこには大量のお菓子と飾り付け、真ん中にはケーキが。そしてなにかを書いている卯李と吟。

「楽兄…えと…見ちゃだめっ!」
「今更遅いよ卯李兄…」
「楽の配属お祝いパーティーしようって梅雨梨が言ったら卯李と吟君がノリノリになっちゃってね…」
「そうそれでサプライズにしようって…」
「お前ら…俺より浮かれてないか…?」
「だって…あの楽が遂に里直属の班だよ…!?」
「あのってなんだ。あのって」
「あーあぁ…」
「落ち込まないで卯李兄」

吟が沈んでいる卯李の頭を優しく撫でる。この二人たまにどっちが年上なのかわかんなくなるんだが…。

「さてと、気を取り直して…パーティー、しますか!」
「うん!」


ドォォンッ

突然なり響いた音が、この店を襲っているものだと気づくのに俺たちは数秒もかからなかった。
なぜなら、一瞬で目の前の壁が取り払われ、視界には外の風景が映っていたから。