紅雨/勇魔。/COC/その他

紅雨 一章 1、春月の光の下で  

 

伊賀の里では名の通った立花家。
俺、立花 楽はその一人息子だ。
今俺は、月の光が差し込む居間で、どこかご機嫌な父の目の前に正座している。
明日は任務も無いし、漫画でも読んで寝ようとしていたら、突然父の屍木(かぎ)に呼ばれたのだ。
先ほどまで部下の茶紺(さこん)や飛翔(ひしょう)さん達と一杯やってたらしいなこれは・・・と部屋の状態を見て思う。

「楽」
「あっ、はい。何すか父上。」
「お前今日から茶紺班な。」
「・・・・・・・・はい?」

突然の配属決定に動揺する。
というか、それ絶対お酒入った勢いで決まったんじゃないんすか恐ろしすぎるんすけど大丈夫っすかね何もいきなり里直属の班に入ること無いんじゃないっすかね茶紺とこって相当重要な任務任されてるとこっすよね確かに最近一人抜けたって聞きましたけど中忍にすらなれてない俺がそこで活躍できると・・・?????
・・・と一通り心の中でツッコみ、俺はふぅと息を吐く。

「いいんすか俺がそんな・・・」
「忍としては名誉なことだろ。まあ立花の息子なんだからそれくらいは普通だと思え~」
「はあ・・・まあそうなんすけど・・・」

立花の息子だからといって特別できが言い訳では無いんだが・・・。むしろ多分センス無いし人一倍修行してやっと今下忍として任務こなせてるんだけどな・・・。などと思いつつも俺は内心ワクワクしていた。
理由は、しいて言うならば「梯任務に関われるから」。ここ最近、伊賀の里で大きな話題となっている梯という里。里とは言ったが実質は集団に近いらしい。茶紺・・・秋月班に入ることによって任される任務の一つであろう梯任務は、俺にとってはもちろん今までで最大の規模のものだし、梯についての噂を聞いていると俺個人として気になる情報があり、それについて調べたいという欲も少し前からあったのだ。
まあ「個人的に気になる情報」についてはのちのち明かしていくことになるので、ここでは言わない。

一通り説明(という名の酔っ払いの長話)を聞いた後、父の部屋を去る。
さっさと寝ようと思っていたのだが、急な配属決定による興奮と心配とで明日あるらしい顔合わせの前に会っておきたい人物がいたので、俺は必然的にもう少し起きていなければならなくなった。
そいつを呼び出し、立花の屋敷の庭先で待っている間、改めて冷静になって梯任務について考える。
そもそも梯の情報はかなり里の機密情報として扱われているらしく、任務に関わる人間しか知らないものも多いと聞いている。おかげで変な噂が一人歩きしたりしていたりもするが俺はそんなものには惑わされなかった。なぜなら、本当の梯情報の一部を既に知っていたから。

「楽さん~この前の資料持ってきました~!」
「優ー!こんな時間に突然ごめんな、さんきゅ」
「いえ、楽さんの頼みですもん!」

祖父が里のお偉いさんで、情報を自由に持ち出せるらしいコイツのおかげでな。
俺の突然の呼び出しにも嫌な顔一つせずに来てくれる、永登 優(えいと ゆう)。俺より年下でチビな優は線が細く華奢で忍らしくないが、頭が良く悪巧みも得意だ。いつも大人達の目を盗んで一緒に色々な悪戯を仕掛けていたりする。

「・・・で、なんでお前もいるんだ、がく」
「ええやん別に~言うたら俺、優とセットやん?」
「いや知らんがな。いつからセットになったんだお前ら。」
「僕は認めてないんですけどね」
「えっ!?そーなん!?」
「そんな露骨に驚かれても・・・」

おまけでついてきたらしい関西弁で喋るコイツは、十六女 岳火(いろつき がくほ)。いつのまにか優のストーカー・・・というか保護者的位置にいた立花の分家の子だ。本来は俺のはとこという位置にいる奴だがもはや優と同じで悪友と化している。

「まあがくは置いといて・・・」
「ひど・・・置いとかれた・・・」
「そうだ資料。何に使うんですか?」
「聞いて驚くなよ。俺、ついに梯任務につけることになったんだ~!」
「おお~!!ついにですね!!流石楽さん!!」
「ほんまに~??楽の戦闘力でいけるん???」
「失礼やなお前はほんまに」
「楽さん方言」
「あっ、つい」

優に手渡された資料の内容はもちろん梯のもので、パラパラと目を通してみると前に一度見たものと新しいものがあることがわかった。新情報までは頼んでないのに持ってきてくれるあたりまじ流石優、って感じだな。

「やっぱ任務行く前に梯についての情報しっかり頭にいれておきたくてさ~えーっと、あ、このページだ」
「こんなやり方せんでも行く前は行く前でなんか情報くれんのちゃうん?」
「ん~まあ多分そうなんだろうけどさ。俺的に重要な情報と、里的に重要な情報は多分ちげーじゃん?」
「ああそーなんやなるほど」

横から覗き込んでくるがくを無視しながら、俺は資料を読み続ける。
梯の基本情報としては、リーダーは綴(つづる)、副リーダーは柊(ひいらぎ)という男だということ、今のところ確認されている構成員の数は10人。拠点となっているのは比較的甲賀に近い山のどこか。という非常にあやふやな情報ばかり。少数でも戦力は桁違いなのだから、情報を集めるのには手こずっているようだ。なにせ調査に行った忍が生きて帰ってくることが少ない。拠点にほど近い場所までいくと構成員に発見されてしまうのだろう。
次に襲撃についての詳しい資料に目を通していると、気になる文字が飛び込んできた。

「この甲賀への襲撃のデータでさ、法雨って忍が梯のやつ始末したって書いてるけどこの法雨のやつってもしかして・・・」
「ああ、多分それは・・・」
「そうだよ、俺のこと。久しぶりだねぇらっくん」
「!??」


突然降ってきた声と共に月の光で地面に浮かび上がった影は、俺にとってずいぶんと懐かしい人物のものだった。